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新たな獣医師の誕生

この春、獣医大学を卒業した知人から、
メールが届きました。
国家試験に無事合格したという嬉しい知らせ。
いよいよ獣医さんに、なるのです!

彼、イタミ君とは、「獣医師になりたい」という取材企画で知り合いました。
二日にわたって大学内で張り付いて、獣医の卵の生活を追いかけた。
昨年の1月、場所は雪深い北海道。
獣医学部の教授に、どなたか学生さんを紹介してほしい、と頼むと、
紹介してくれたのが、当時5年生のイタミくんでした。
(学生を見回し、あの人になったらいいなと密かに願っていたので、
心の中でラッキー! )
イタミ君は、とてもソフトな感じの青年なのでした。

麻酔科の彼は、犬の外科手術にたちあっていました。
優しげな表情も、オペ室に入ると、きりりと変わります。

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(機械の側で作業するのがイタミ君)


オペの取材のあと、質問をしました。
「そもそも、何で獣医師を目指そうと思ったのですか?」

犬が好き、猫が好き、、、、というような答を想像していたら、
意外な答えが戻りました。

「ある馬との出会いがきっかけでした。いや、「馬の死」との出会い
というべきか、、」

馬!?

「高校生の時に、TVで 『競馬中継』を観ていたんですよ。
すごく人気のあったサイレンススズカという馬を、応援していました。
ところが、、、レース中にサイレンススズカが脚を故障してしまい、
その場で、安楽死処分になっちゃったんです、、
すごく、ショックだった、なんでなの?って。
もう二度と、走る姿を観られなくなったうえ、安楽死処分だなんて、、
何とか生かす方法はないのかと、、ずっと考えて、その晩は眠れなかった、、、」

イタミくんは、その日を境に動物の安楽死について考えるようになったといいます。
そこから、動物の「命」にむきあう職業に就きたいと思うまでに、
時間はそうかからなかったそうです。
イタミくんの家にも、高齢期にさしかかった犬がいて、
自分が最期を観てあげるんだ、、との思いが高まったそう。

その話を聞いて、私の心も高まりました。
私も、そのサイレンススズカが亡くなったレースを観ていたからです。
私は競馬場にいました。
武豊が騎乗するスズカを、応援していました。
ほとんどの観客がサイレンススズカを目的に集まったというくらいの人気。
ところが、4コーナーの手前で、粉砕骨折、、、
速すぎる脚が、くだけてしまったんです。

馬の骨折は、その程度や状態にもよりますが、最悪の場合は、このスズカのように
「予後不良」として薬殺になるのです、その場(馬運車の中)で、、、、、、
粉砕骨折の治療は厳しいのです。体の重みに細い脚がたえきれず、
治療の最中にも傷んできてしまうからです。

私も競馬場で泣きました。
緑のメンコをつけた、可愛い顔の馬でした。

、、、イタミくんと私は、患者さんの犬のお散歩をさせながら、
話を続けました。構内の雪の上をサクサクを歩き、、、

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私たちはサイレンススズカをしのびました。

「悲しかったよね」
「ホントに悲しかったですネ」
「でも、速かったよね」
「うん、かっこよかった」
ふっと、心と心が通じ合う。そんな瞬間でした。


イタミ君はもともと関東出身。
親元から離れ、北の国でひとり暮らしをしています。
取材をおえて東京に戻ってきてからも、ときどき
メールのやりとりをしていました。


「いつかうちの猫、診てもらいたいな」
「ええぜひ」

あれから1年と少し。
彼から届いたメールの内容は下記です。(許可もらったのでのせます)


「無事、第57回獣医師国家試験の合格証をいただきました^0^

4月からは札幌の動物病院で働きながら、
週1〜2で大学病院でも勉強する生活となりますw
どこまで体がもつやら、、、^^;

でも、ようやく動物や飼い主と接して仕事が出来るようになり、
自分のやりたかった仕事ができるようになります♪
責任や命を預かる、というプレッシャーもありますが、
気合入れて、少しでも多くの命を守って、
ハッピートライアングルを形作れる獣医になりたいです^^

今度、サイレンススズカに報告に行く予定です。
形は違えど、獣医になれること、喜んでくれますかねw」



、、、すぐに私は、携帯に電話しました。
「おめでとうございます!!!
 もちろん試験に通るとは思っていたけど、でもよかった。
 私もうれしい!! スズカのお墓参りにいくの?」
「ええ、いってきます」

高校生の時に、獣医さんになろうと心に決めて、
その夢が、実現する。
でも電話を切る前に、彼は言ってました。
安楽死の問題は、自分の中でまだ解決していない、と。
これから、ゆっくりと答を見つけていくのでしょう。

残念ながら、イタミ家のわんちゃんは、先日、
彼が獣医師になるのを待たずに天国に逝きました。
その時、とても悲しんでいるメールが届きましたが、、、
飼い主としても、もっともつらいことを体験した彼は、
多くの飼い主の「心のケア」もできるよい獣医さんに、
きっとなってくれるはず、、、。

彼のメール内にもありますが、「ハッピートライアングル」
というのは、「獣医師と、飼い主と、ペット」との三角形の関係が
うまくいくことを指します。

真のハッピートライアングルを目指して、
イタミ君、いえ、イタミ先生、がんばって!!
素晴らしい獣医さんに、なってください。

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左から、伊丹さん。酪農学園大教授の廉澤先生。ルナパークこと藤村かおり。
笑顔満開。
by inuorunao | 2006-03-26 20:26
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